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yahiro992005-06-06

【書評】 加藤典洋『テクストから遠く離れて』(講談社、一八〇〇円)
                                
 
この本を一言でいえば、〈脱テクスト論〉という名の〈受容理論〉の再提示である。
本書では〈テクスト論〉に変わる新しい小説の読み方というものを「作者の像」という言葉を使って説明している。加藤は〈脱テクスト論〉を「言表行為の出たところに作者をとらえるのではなく、言表行為のなかで作者の像をとらえ、受けとること」だと言う。言い換えるとテクスト外の〈実態的な作者〉ではなく、テクスト内における〈読者に想像された作者〉だというのだ。しかし、「脱テクスト論」の「作者の像」とは〈受容理論〉における「統一的な意図を持った想定された作者」にかなり近い概念なのではないか。 
 旧来の文学研究では、作品には作者の主張が一つ一つに込められているものであると考えられていた。作品を研究することはその一つ一つの「作者の主張(意図)」を追及するという〈受容理論〉研究が主として行われていたのである。そうした「作者の意図」という呪縛から読者を解放するために〈テクスト論〉が現れた。テクストはスポットライトを〈作者〉に当てるのではなく、今まで制約されてきた〈読者〉に与えるのである。
結局のところ受容理論のいう「作者の意図」と加藤のいう「作者の像」は限りなく近いのだ。加藤典洋のいう〈未来〉の小説の読み方である〈脱テクスト論〉とは〈過去〉における〈受容理論〉とほぼいっていいものであり、文学理論の空虚な〈過去〉への回帰ほかならないのである。